sci-fi fab

原書で読む 海外SFのすばらしき世界

The Door Into Summer / Robert A. Heinlein






光るチャーミングでロマンチックなメタファー



27冊目。
Robert A. Heinleinの言わずと知れた代表作”The Door Into Summer”(1956)(『夏への扉』)を読了。もちろん今もハヤカワ文庫版が普通に書店に並んでいる。


まずはアウトラインを。


ぼく(Daniel Boone Davis、通称Danny)は、預かっているオス猫Petronius(Pete)とともに”Sans Souci Bar Grill”の扉をくぐり、ひとしきり酒をあおっていた。Peteはお好みのジンジャーエールをぴちゃぴちゃやっていた。ぼくは自暴自棄になっていたのだ。

経緯はこうだった。

1940年生まれで、大学の工学科を卒業後、六週間戦争が始まると陸軍に入隊した。ニューメキシコの兵器センターで技術士官の任に着いたりしたのち、冷戦が収束するとさっさと除隊した。ぼくは他が真似のできないエンジニア技術を持っていたのだ。そして、監督のいらないハウスキーパーロボット”Hired Girl”を設計・開発した。

30代の技術者のぼくには、あまりガツガツしていない頼りになるボスが欲しかった。軍で知り合った年長の友人Miles Gentryが退役すると、彼の手腕を買ってビジネスパートナーとして向かい入れ、Mojave砂漠に工場をどんと建て、この世紀の発明を店舗販売することにした。ぼくがチーフエンジニア兼GM(株式の51%保有)、Milesが社長、そして店主兼秘書にBelle Darkinを雇った。ぼくは戦士のように働き、”Hired Girl”は飛ぶように売れた。

Belleは優秀な上にスタイルも良く、とても魅力的だった。Milesと競った末に彼女を勝ち取り、婚約し、そのしるしに彼女に会社の株式の一部を渡した。Milesには前妻の連れ子がいた。Frederica Virginia Gentryという名の少女で、ぼくはいつもLittle Rickey(あるいはRikki-tikki-tavi)と呼んで可愛がっていた。子供扱いしないせいか、飼い猫のPeteともどもぼくにとてもなついていた。大人になったらきっとお嫁さんになると、子どもらしい約束をしていたので、Bellaについてはよく思っていないようだったし、PeteもBellaにはけしてなつかなかった。

ぼくは技術をさらに発展させて、完全に人間のかわりになるロボット”Flexible Frank”の開発を目指していた。試作段階でMilesはすぐに生産ラインに乗せたいと考えていた。会社の経営が思ったよりも芳しくなく、この発明を社の経営の起爆剤にしたがっていたのだ。ぼくは”Flexible Frank”の精度を上げ、「芸術品」として完成させるまでは、まだ誰にも触らせたくなかった。ふたりの意見は対立した。1970年11月18日9時20分、急遽ぼくとMiles、それにBelleの3人による株主総会が開かれ、なんとBelleはMilesの側につき、二人に造反されたぼくは会社を追放されてしまった。しかもBellaはMilesに気持ちを移してしまったのだ。ここに来てBelleの非常に計算高い本性を悟ったのだった。

1970年12月3日。バーの窓越しに明滅する”Mutual Assurance Company ”(相互保険会社)のネオンが目に映った。ちょうど会社を立ち上げた頃、”cold sleep”(冷凍睡眠)が世の中に一般化され、保険会社がこぞって売り出し始めたところだった。”Mutual Assurance Company ”もそのひとつだった。”cold sleep”は高価すぎるし、実際1970年代に不満もなかった自分には何のアピールも感じなかったが、全てを失ってしまった今は違った。酒をあおってぼくは”Mutual Assurance Company ”へ向かった。2000年まで、30年の”cold sleep”を決めた。唯一心残りは家族同様のRickeyとPeteだったが…




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ONE WINTER SHORTLY before the Six Week War, my tomcat,
Petronius the Arbiter, and I lived in an old farmhouse the edge in Connecticut.

六週間戦争の少し前のある冬、ぼくとオス猫のPetroniusは、
コネチカットのはしっこの農舎で暮らしていた。


But he never gave up his search for the Door into Summer. On 3 December, 1970, I was looking for it too.

でも、Peteは夏への扉を見つけることをけしてあきらめなかった。1970年12月3日、同じくぼくもそれを探していたのだった。


ほっこりするような書き出しであまりに有名な本作、SF入門的ランキングでも必ず名前が挙がるが、Heinleinのベストかというのはまた別の話だろう。
発表年代からしても、藤子・F・不二雄が目指していたようなSFの原型では、と思える。ロボット(AI)、冷凍睡眠、タイムトラベルといった王道のガジェット、主人公がどこまでものんきな善人で、降りかかる災いをすかしてハッピーエンドというシンプルかつ都合の良いプロット。むろん読後感は悪くないが、エグ味もまったくない。自分のようなヒネた読者にはちょっと、というか、ずいぶん物足りない。ドラえもんの世界みたいのが好きなら素直に楽しめるだろう。

ただ、引用したように、書き出しからエンディングへと貫く「猫とぼくが「夏への扉」を探し求める」というチャーミングでロマンチックなメタファーには確かに魅力があり、それこそが今も読み継がれている理由ではないだろうか。
そういえばいつぞや「のんきな善人SF」を読んだなぁ。そっちの方は70年代の作品なので、もっとはちゃめちゃで面白かったかも。

なじみ深いハヤカワ版の表紙絵は悪くないが、ちょっと生真面目すぎるかな。今回手にしたPanther Books版の表紙絵の偽マグリット的なインチキっぽい感じの方が作品に合っている気がするが、猫を描いていないのがマイナスポイント。