Flow My Tears,The Policeman Said / Philip K. Dick




5冊目。
Philip K. Dickは邦訳も多く、この“Flow My Tears,The Policeman Said”(『流れよ我が涙、と警官は言った』)も昔サンリオから出ていたし、最近は早川版もあるようだ。実世界と虚世界をあつかう近未来サスペンスはDickの得意技だが、未来設定自体は少しばかり交通手段が便利になっている描写があるだけで、特に超未来感はない。3千万人の視聴者を持つTVショーのスターMCのJason Tvernerは、あるきっかけを境に「この世には存在しない人物」として、警察にマークされ、追われる立場となってしまう。彼は“SIX”と呼ばれる一種の超人類なのだが、この点はさほど説明されていない。常にクールにふるまうことが出来るのが特徴くらいか。ただ、彼が渦中に飲み込まれる因子のひとつなのだろう。彼のTVショーなど誰も知らないし、IDも一切ない。それどころか自分の出生証明も照会できない。彼を追うロス市警察本部長Felix Buckmanと、そのワイルドな妹Alys、幾人も登場する自己愛にとらわれた女性たち。
SF的なアイディアを外せば、クールな主人公と、女性たちのややこしい関係が繰り広げられる一種のハードボイルド小説といえるし、キンキーなセックスもサブテーマなので、かなり好き嫌いは分かれると思うが、小説としての不思議な読後感を味わうことは間違いない。ドラッグのオーバードーズがもたらすパラレルワールドへの跳躍というと、いかにも70年代な着想だが、散らかりがちなパラレルワールドテーマをうまくまとめ切れている方だと思う。見開きごとに「え!急に?」みたいな展開が続くので、ドラマとしてそこそこ楽しめる。Dickの作品は『ブレードランナー』はじめ『トータルリコール』など、派手目な作品が映画化されているが、これはちょっと地味になるかな。



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