The Left Hand of Darkness (2)/ Ursula K. Le Guin




"The Left Hand of Darkness"は複数の側面が重なる凝った構成の物語だ。

まず、文化人類学的な紀行文という側面。あまり歓迎されない孤独者Genry Aiの、興味・観察を軸に困惑・失望といった体験を、とつとつとした独白で考察していく。前時代的な専制君主国家である雪に閉ざされたKarhide王国は容易に帝政ロシアを彷彿させ、対して ユートピア的理想社会を獲得し、圧倒的な文明のアドバンテージを持っている優位な高みから見下ろしているEkumanという図式は、60年代当時のかつての東西関係を匂わせる。(初代早川版表紙絵はまさにこのイメージ)

中盤以降一転してタフな氷河と雪山の行軍が展開される山岳冒険小説としての側面。Genry Ai は諜報ではないがGethenのどの国からも警戒される、招かざる客である。そうした微妙な立場が災いし、Karhideでうまく立ち回ることができず、隣国のOrgoreynへ追われるも、行った先で今度は労働更生収容所へ送られてしまう。そこから厳冬の山岳ルートを越え、Karhideへと帰還するパートはこの物語の山場だ。 

さらに架空のフォークロアという側面。舞台設定の中世のゴシック調子の雰囲気に加え、遠い過去に遡った伝承のような挿話が加えられていて、本筋には直接絡まないものの、過去と現在が不思議に共鳴し、Gethenの世界に深みを与えている。

そして最後に性的側面である。GethenIanは"androgynous (両性具有)"なのだ。この着想が、物語を平凡に終わらせないひねりを加え、通常とは違った眼鏡で見る景色のように、常に違和感をおぼえる仕組みになっている。「男性」でありながら「女性」でもある人々。Genry Aiの興味の中心はGethenianのこの特質にむけられ、興味と好意の目で観察している。いかなる進化過程を経たのかは計り知れないが、遠い祖先、Hainの何らかのexperiment によってある種男性的、好戦的な資質を抑制して行った結果とも推測され、それ故Gethenianは小柄で声も高く、精神的にも抑制的で基本的に非好戦だ。"kemmer"とよばれる28日周期の発情期に、「男性」か「女性」かに傾き、おじさんでも妊娠し子供を産む。Karhideの国王ArgavenXV(おじいちゃん)ですらご懐妊してしまうのだ。

こうした幾層もの構成の中で、多くの登場人物や地名など作者の練り込まれた独自の世界観がしっかりと構築されている。前述したように初めの一章を読んだ段階でこれはいかんと、読みながらメモを取っていった。普通は登場人物の忘備程度なのだが、今回はまめにせざるをえなかった。

(つづく)



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