The Left Hand of Darkness (3)/ Ursula K. Le Guin 2016/12/16




GethenIanは両性具有であり、”kemmer”(発情期)で「男性」あるいは「女性」に傾く。この設定のゆえ本書が一般に「フェミニズム」とか「ジェンダーフリー」といったタームで語られることは理解できる。しかしどうだろう? 作者Le Guinがフェミニストだとしても作中ことさらそれを強調しているとは思えない。GethenIanの"androgynous (両性具有)”という設定によって、いわば「ジェンダーフリー社会」のようなものを観測している物語だろうか。それも違う感じがする。やはり「男性的社会」の亜種の物語なのだ。GethenIanは確かに”kemmer”によって女性に傾いたとき妊娠できるが、けして内面までも「女性」になりきるわけではない。ちなみにGethenIanの人称代名詞は常に”he"である。両性具有という特質はGethenの人々に、時に奇妙で滑稽な個性付けをしていることは確かだが、あえて言うなら後半部のために用意された仕掛けなのだ。

後半、物語はGenry Ai がKarhide国を追われるあたりからワイルドに動き出す。そこには一人のGethenian、Therm Harth rem ir Estravanが深くかかわることになる。EstravanはKarhide国に領土を持つ有力者で国王の側近でもある。Genry Ai はEstravanの存在は認めつつも、クールネスな言動に警戒し距離を置いていた。やがてEstravanもまた国王とその親族に嫌われGenry Ai 同様Orgoreyn国へ向かう。地球人Genry Ai とGethenianのEstravan、二人は運命的にOrgoreyn国で再会する。その後収容所でぼろ雑巾のように成り果てたGenry Ai をEstravanが救出に駆けつけ、二人で監視の目の届かない山岳ルートを縦走してKarhide国への帰還を試みる。"The Left Hand of Darkness"のクライマックスだ。

Genry Ai とEstravan、二人は章ごとにかわるがわる独白する構成で、おのおのの長所、短所を観察し共感し、あるいは反発する。雪中行軍の息が詰まるような閉鎖的な環境下、二人のあいだに生まれる不思議な精神交流。Genry Ai は、Ekuman(地球人の共同体社会)で取り交わされる”mindspeak”と呼ばれる一種の交心術をEstravanに伝授する。全く異質の二人が、そうして徐々に互いを理解しようとしていく。もし単に男同士なら、極限的な状況下の男臭い友情物語になりそうだし、男女なら色恋に発展しそうな、ともすればステレオタイプな展開だが、両性具有でありさらに、雪中行軍のさなかに”kemmer”に入ってしまうEstravanの強さともろさ、それに対峙し理解しようとするGenry Ai。交わされる友情とも愛情ともつかない、この設定ならではの関係性に読み手は不思議な感動を覚えるのだ。

"The Left Hand of Darkness”のタイトルは、小さなテントの中でEstravanがとつとつと語る、予言者に伝承されている言葉の一節だ。「光は闇の左手であり、闇は光の右手である。二つは一つで、生と死は、kemmerの時の恋人のように寄り添っている。」Le Guinは、ここに東洋的な「陰陽」の思想を盛り込んでいる。「性」を固定的なものではなく、流転する「運命」のようなものと定めている。邦訳にあるかどうかはわからないが、序文(表紙に”never-before-published introductory essay“とある)でLe Guinはこのようなことを語っている。"Science Fiction is not predictive ; it is descriptive"(SFは、予言的ではなく、叙述的なものなのです)"The future, in fiction, is a metaphor."(フィクションで語られる未来というものは隠喩です)Le Guinにとって物語の意図はある種の未来社会の予測や実験ではないのだ。物語は叙述的で隠喩に満ち、読み手がはっきりとした答えの出すことの出来ないないまま、胸を打つ結末を迎える。そして読者各自に、物語に、Genry Aiの心情に、Estravanの行為に何らかの「意味」を引き出させる、それがこの物語の仕掛けであり魅力なのだと思う。

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2017/02/09 (Thu) 19:30 | EDIT | REPLY |   

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