Brightness Falls from the Air(3) / James Tiptree Jr.




"nova-front"の通過による輝かししい天空の気象スペクタクルが最高潮に達したとき、静かだった物語は大きく動き出す。以降、すべての登場人物が相互に関連し、影響を及ぼし合いながら驚愕の結末へと進んでいくのだが、これ以上のストーリーを語ることは控えた方がよいだろう。

全22章の長編ではあるが、各章立てがはっきりしていて不明瞭な部分はなく、整然と時系列で物語は進行していくので短編のアンソロジーのようにも読むことができる。また、作中多くの人物・星や星系・宇宙船などの固有名詞や、独特の物の言い方など、非常に細やかに創り込まれた世界観が物語のリアリティを高めるガジェットとなっていて、しかも親切にも巻末に付録のGlossaryまで用意されていて、未知のことばに出会ってお手上げと言うことはなかった。

本作は細やかな設定のSFであると同時に、閉鎖的な空間の中での精神的な葛藤を描いた密室劇である。"nova-front"の影響下で、"time flurry(いくばくかの時間が逆行する現象)"が発生し、それによって過去に遡り未来を改変できるか。不慮の落馬事故により植物状態となってしまった双子の貴婦人の妹は恢復するのか。親子としての愛情は、男女の愛情になりうるのかなど「不変」なるものが「可変」しえ得るのかという葛藤のドラマが物語の伏線としてちりばめられている。

一方「愛情」も物語の大きなテーマとなっている。もちろん男女の愛情があり、親子の愛情、兄妹の愛情、保護種族への愛情、故郷への愛情など、幾層にも「愛情」が細分化され、繰り返し「不変性」への問いかけがなされる。そして重要なのは、その背後にある視点がけして「不変」に期待を寄せるものではない、むしろグッドエンドを許さないアイロニカルな眼差しでそれそれの物語が進められている点だ。実はひっそりと多神教の概念が入っており、例えば「!」の意での「神よ」は常に"Gods!"と複数形なっている。特に深い説明はないが、ここにも西欧の「不変」から「可変」への拡散が垣間見える。

美しき「不変」の表層で隠されている、混濁とした「可変」。冒頭で触れたが、かつて「男性」の覆面を被っていた作家の本質のようなものをそこに強く感じた。James Tiptree Jr.の晩年は周知のことと思うのであえては触れないが、この物語の思想の延長に見えると言ってしまっては乱暴だろうか。

隠された真実が明るみになるかと思うと、それを凌駕する真実が現れるスリリングな展開と、けして共感はできないが魅力的ではある登場人物たち。自分のように、すこしばかりひねくれたタイプの方面には興味深くページを進められる物語としてお勧めしたい。




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