United States of Japan (2) / Peter Tieryas




ブルータルなバイオレンスで描かれるUSJ観光ガイド



オルタネートヒストリーものの中でも、WW2で日本が勝ったバージョンである。おや、これはディックの『高い城の男』的な? と、当然比較してしまう。実際巻末の謝辞で著者本人が”Philip K Dick who inspired me a great deal growing up, especially through The man in the High Castle”と筆頭に掲げ、その影響は否定していない。

Akikoと”kempeitai”(憲兵隊)とのやり取りにこんなくだりがある、(P.213)

”What languages are you fluent in?” (おまえはどの言葉をあやつれるのだ?)
”German, Italian, Japanese, and English. ” (独語、伊語、日本語、それに英語ね)
(中略)
”What's your primary language?” (おまえの第一言語は何だ?)
”English” (英語よ)
”Not Japanese?” (日本語ではないのか?)
Akiko hesitated before answering truthfully, ”Not Japanese” (アキコはためらったのち誠実に答えた「日本語ではないは」)

作中BenとAkiko、そしてもろもろのUSJ residents は英語で会話しているということが想像できる。”shinto”(神道)が尊ばれ、”seppuku”(切腹)の慣習が依然として残り、”yakuza”(ヤクザ)が闇社会を仕切り、時々”arigato”とか”sayonara”とか”baka”とか発したりする。日本帝国が統括しているUSJの世界観は、日本に純化しているのではなく、むしろ「合衆国化した多国籍なムードの日本」であり、雰囲気としては、たとえば日系3世くらいの人たちが、祖父母から伝わる日本文化や言葉といった断片的な知識をもって、独自の日本観に則って生きているような、われわれの立場から見ると少し奇妙な印象の物語である。全体の3分の1くらいは、なんとなく肥大したアキバ、オタク文化の行く末を見るようなUSJ観光ガイドといった趣の風景描写で、日本以外の国々の方には非常に興味深く感じるだろうし、逆にこちら側からみると、んなあほな、とつっこみたくなる点もあるにはある。また、実際の歴史・文化を題材に扱っているわけなので、そのあたりの考証に疑義を唱える向きもあるかもわからない。しかしそういったことは本書の場合些事でないだろうか。

本作はけして歴史のアイロニーを扱っているわけでもなければ、教条的な寓話でもない。USJ、日本帝国は結局恐怖で抑圧する悪として描かれていに過ぎず、つっこんだ具体的な国家観は実はそれほど深くは書かれていない。カウンター勢力のGWも政治結社というよりは怪しげな宗教集団で、これも一種のカリカチュアである。うっすら旧米国のフリーダムを美化しつつも、イデオロギー的な押しつけは、さほど感じられない。いずれもストーリーを彩るパーツである。
非常に読みやすく、逆に言えば難解な節回しやにひねった表現は少な目ということである。もともとそういう文学的な高みを狙ってはいないのか、あるいは単に作者の技量なのかわからないが、とにかくこの物語は軍事ゲームのとりことなった世界の破壊的なサイバー感(80年代なので「過去」だが)、ヘタレキャラBenと冷徹な国粋主義者Akikoの二人の、でこぼこしたロードムービー的なやりとり、そしてブルータルなバイオレンスが錯綜するスピーディーなエンターテイメントとして評価したいし、それは成功していると思う。古い人間なのでダイナミックプロ系のマンガをつい連想してしまったが、登場するサブキャラはそれぞれマンガチックにわかりやすくデフォルメされていて良い意味で日本的、マンガ・アニメ的な一冊である。

「こういうのじゃなくてさあ」ということであれば、それこそ『高い城の男』や、Ken Liuの作品に触れてみるのもよいと思う。ちなみに巻末の謝辞にこうある。
"I wanted to thank Ken Liu for writing “The Man Who Ended History: A Documentary”. When I finished my first draft of USJ, I was very scared because of the material it covered and I found a lot of courage reading Ken's superb novella."(Ken Liuが “The Man Who Ended History: A Documentary”を書いてくれたことに感謝したいです。USJの第1校を書き上げた後、私はここに取り上げている題材に恐れを感じました。そしてKenの素晴らしい中編を読んでたくさんの勇気を得たのです。)
やはりある種万難廃する覚悟がなければ、ということなのだろう。本作のように取り扱いの難しい題材とエンターテイメントの折衷点を模索した著者の挑戦には敬意を表したいと思う。

表紙デザインは、新☆ハヤカワ・SF・シリーズ版は原書のイラストが流用されているようだが、文庫版の方は別バージョンで、同じイラストレーターJohn Wallin Libertoによる。下巻のmechaは“musasabi“かな?

***

翻訳版については読んでいるわけではないので表紙のデザイン以外は語らない方針なのだが、どうしても訳文が気になったので書店で覗いてきた。やはり登場人物は『高い城の男』式に漢字があてられていた。”kujira”は関西弁か。読みやすそうだが、そうすると「英語で会話してる感」も「日系3世感」も薄まって、ますます世界観の奇妙さだけ浮き彫りになるんじゃないかと、ちらと思ったりしたが、いかがだろう。


  

Comments 0

There are no comments yet.

Leave a reply