Vermilion Sands (1) / J. G. Ballard





アウトライン(1)



15冊目。
J. G. Ballardの”Vermilion Sands”を読了。早川海外SFノヴェルズ・ハヤカワ文庫SFはともに絶版。現在、創元社「J・G・バラード短編全集」にちらばって収録という形で読むことができる。
Vermilion Sands  それは Ballardの想像上の(理想の?)場所。砂漠が広がる荒涼とした風景。セレブリティとディレッタントたちが都市生活を逃れ、退屈とある種の倦怠を愉しむ。本書はVermilion Sandsを舞台にした9つの物語が収められている。
いつものようにまずは各編のアウトラインを。()内は初出年。


“The Cloud-Sculptors Of Coral D”  『コーラルDの雲の彫刻師』(1967)

パイロットのParker少佐は、1年以上前からVermilion Sandsに身を置いていた。彼は巨大な凧を製作し、さらに発展させてコクピットのついたグライダーを造るに至った。そんな彼のに、Vermilion Sandsで自由に過ごす男たちが興味をもって集ってきた。ちびのPetit Manuelはアクロバットと重量挙げの力持ち。背の高い黒髪のNolanは孤独を好む芸術家。そして北欧系のCharles Van Eyck。足の不自由なParkerは自分が乗れなくても、3人にグライダーの操縦を教えることはできた。Petitはグライダーをupdraught(上昇する気流)に乗せ、白くVermilion Sands一背の高いタワー“Coral D”の上空に寄せてくるstrato-cirrus(層をなした巻雲)に、silver iodide(ヨウ化銀)を使ってさまざまな彫刻を施すことを提案してきた。3人の男はグライダーを嬉々として飛ばし、雲に思い思いの彫刻を始めた。それは素晴らしい仕上がりで、いつしかそれはVermilion Sandsの空を彩る余興となっていた。
その夏、Leonora Chanelは白いロールスロイスのリムジンでやってきた。彼女はモナコの富豪の娘で、亡父の相続に関するゴシップから逃れてきた”Garbo-like role”(ガルボのような役)を演じているような、白い髪と宝石のように輝く目を持った女性だった。彼女は肥大したナルシズムの持ち主で、邸宅には自分の肖像画、写実的なものからダリやフランシス・ベーコンによる奇妙なものまで、20枚以上が飾られていた。彼女は男たちに、危険な天候にもかかわらず、自らの肖像を彼らに彫るように彼らに求めてきた。退屈を持てあますLeonoraの戯れに、男たちの幸福な調和が乱されていく。
熱く乾燥した疾風。砂漠にそびえ立つ“Coral D”の上空に浮かぶ幻想的な雲の彫刻。奇妙な執着に捕らわれたLeonoraと男たち。シュールレアリズムの絵画を見るような、耽美とある種の不穏な空気が通底するラプソディ。


“Prima Belladonna”  『プリマ・ベラドンナ』(1956)

Steveは海岸通りのアパルトマンで”choro-flora”を扱う園芸店を営む独身男。”choro-flora”は、かつてギアナの森で発見された受粉時に微細な音を奏でる品種で、音響装置を接続することでクラシックといった素晴らしい音楽を奏でるまでに改良されていた。Steveは要望に応じVermilion Sandsの顧客にこの花を納め、チューニングしてあげていた。
夏の暑く気怠いある日、Steveはいつものように、仲間で既婚者のTony MilesとHarry Devineとともにビールを飲みながら、音楽をかけ、”i-Go”(囲碁)を打つ以外何もしないいつもながらの時間を過ごしていた。その日、バルコニーから見える、向かいに越して来た女性に一同は色めく。メタリックな帽子以外一糸まとわぬ彼女は金色の肌と昆虫のような目をした魅惑的な容姿の女性だった。視線に気づいた彼女はブラインドを下げた。しばらくすると彼女は園芸店に”choro-flora”を求めにやってきた。彼女の名前はJane Ciracylides、深夜カジノで美声を聞かせるプロの歌手であった。Jane が園芸店に入ると、不思議と”choro-flora”がざわめきだした。彼女に何らかの反応をするようだった。花々を物色する中で、彼女は”Archnid”(蜘蛛のような品種)を気に入り、千ドルで買うと言うのだが、Steveはそれを拒絶する。なぜなら”Archnid”は”choro-flora”全体の音色を調整する重要な役割をもった非売品であったのだった。彼女はあきらめ、別の花部屋に置いた。
Steveと仲間たちとJaneは親交を深めていた。昼間、Janeは彼らに混じって”i-Go”(囲碁)を打ったり、夜はカジノで彼女の美声酔ったりした。いつしかSteveは彼女と深い関係になっていったが、どうしても解せないJaneの癖があった。
夏のVermilion Sandsの退屈と無気力な倦怠感。砂漠に一点、洗練された安らぎの地のような金色に輝くJaneと、彼女に翻弄される無力な男たち。本編はJ. G. Ballardの処女作であるが、すでに十分に素地となるイメージをものにしている。タイトルの“Prima Belladonna” (最高位の茄子)はSteveがJaneにすすめた”choro-flora”の一つで、“Prima Madonna” (オペラの主役女性歌手)とかけた洒落に読めるが違うだろうか。


“The Screen Game”  『スクリーン・ゲーム』(1963)

Vermilion Sandsで多くのアーティストたち同様長期の休養をとっていたPaul Goldingはあるうわさを耳にする。夏のLagoon Westの保養地Ciraquitoで、著名な映画監督Orson Kaninが”Aphrodite 80”という映画のロケを行うにあたり、その背景となる膨大なバックドロップの風景をキャンバスにペイントする現地アーティストを、金に糸目をつけず募っているというのだ。Paulは早速仲間のRaymond MayoとTony Sapphireをアシスタントに、Ciraquitoにある現場、”summer-house”へと向かった。
その”summer-house”の所有者で、映画”Aphrodite 80”の制作プロダクション”Orpheous Production”のオーナーであるCharles Van Strattenは世界でも屈指の富豪の末裔であった。彼の二度の結婚は自死と駆け落ちされるという不幸で終わり、意地悪だった母親も”summer-house”で事故死して、現在は独り身であった。母の死については、Charlesの愛人に感づいた母を彼がどうにかしたのでは、というようなうわさもあった。
映画の撮影クルーは”D-Day”(ノルマンディー上陸作戦)のような物量で搬入し、空の半分を覆うようなキャンバスで”summer-house”を取り囲んでいた。ペイントの仕事の合間、Paulは不思議なものを見かける。”jeweled insect”(輝く宝石がはめ込まれた蠍や蟷螂、黒後家蜘蛛など砂漠の昆虫)、そしてバルコニーに見え隠れするブルーのガウンの白い顔をした女性Emerelda Garlandだった。
PaulはCharlesから、内々にEmereldaが主演女優だと告げられる。ただし彼女は精神を患い、外の日を浴びず、ひねもす”summer-house”で、昆虫に自分の宝石をはめ込んで過ごしていたのだった。どうやらCharlesの母の不慮の死が影響しているようだった。Charlesは監督にも知らせず、ある種のセラピーとして、Paulの描いたキャンバスを彼女のまわりを取り囲んでは移動させ、風景画のラビリンスを作り出す”screen game”で、彼女の心を癒していたのだった。PaulもEmereldaの魅力にひかれ、ゲームに参加していく。やがて、物語は不意の結末を迎える。
Lagoon Westの乾湖にそびえる、キャンバスに取り囲まれた”summer-house”のテラスにで”like beauiful but nervous wraith”(美しくも狂おしい生霊のよう)もがくEmerelda。異様なきらめきを放つ昆虫。映画を題材としながら、物語自体、荒涼とした砂漠の風景の中で、儚く、幻想的な映像が浮かび上がる一遍である。


“The Singing Statues”  『歌う彫刻』(1962)

Miltonは”Sonic Sculpture”を創る彫刻家の一人だった。”Sonic Sculpture”は電気回路が内部に組み込まれた鉄製の像で、センサーをアクティヴにすると、内部マイクが20フィート周囲の人の呼吸のノイズを広い、それに共振するようにモーツァルトやポピュラーソングを美しく歌う仕組みだった。Georg Neversのギャラリーは彼の芸術品を置き、顧客に販売していた。
3年前のある日ギャラリーにサングラスで顔を隠し、秘書を連れて美しい女性が訪れる。Lunora Goale。Miltonは彼女を単なるディレッタントではないとにらんだ。彼女は現代のエカチェリーナIIのごとく尊大にふるまう一方、その美しさの中に、憂鬱と強迫観念が同居するという奇妙な欠点があった。彼女は実は事故によって顔に傷を負い、女優をあきらめた経緯があった。運命の皮肉で、引退後、芸術家のパトロンとなり世界中の首都をさまよう現在の方が大きな成功を収めていたようだった。彼女は金に糸目をつけず、多くの”Sonic Sculpture”を収集し、世界各国の居に置いていた。その日も新たな芸術品を物色しに来たのだ。
たまたまMiltonはその時、巨大な”Sonic Sculpture”のひとつ”Zero Orbit”の内部にいた。像の内側から、LunoraとNeversが商談を進めている様子を眺めていた。彼女は”Zero Orbit”に関心を持ち、歌声を確かめたいという。残念ながら”Zero Orbit”はごくシンプルな音色しか発することができないものだった。Miltonはつい、通常の共振機能ではなく、外部マイクにテープデッキを接続し録音された歌を流してしまう。彼女はそれを大いに気に入り、想定の倍の1万ドルで売れてしまう。それがトラブルの始まりだった。
芸術家と、自己愛に耽溺していく元女優。砂の中に埋まった粉々になった像から流れる声。切ない白昼夢のような物語。


(つづく)

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