Prostho Plus / Piers Anthony





実直の人は銀河でも通用する



16冊目。
Piers Anthonyの”Prostho Plus”(1971)を読了。『縄の戦士』と聞けばかろうじてタイトルは聞いたことがあるものの、たまたま本書を手にするまでまったく馴染みのない作家だった。作家キャリアは長く、多作にも関わらず翻訳が実に少なく、かろうじてハヤカワ文庫 FT から『魔法の国ザンス』というシリーズのみ20冊近く翻訳されているというわが国ではかなり偏った紹介のされ方をされているようだ。本書ももちろん未訳だ。

ということで、それほど大きな期待もなく読み始めた。
アウトラインはこんな感じ。
SFにもいろいろ主人公がいるものだが、本書のDr. Dillinghamは”prosthodontist”(補綴専門歯科医)、つまり歯に詰めたりかぶせたり入れ歯をつくったりする歯医者さんである。当年41、未だ独身の彼は仕事ひとすじ、平凡だが実直な性格で、かわいい歯科助手のMiss Judy Gallandとふたりで切り盛りしている診療所はそこそこ成功していた。

ある日のこと、順繰りに患者を診ていると、次に順番を待っていたのは不気味な2体のヒューマノイドタイプのエイリアンだった。不気味な彼らに向かってDr. Dillinghamはひとこと

”Gentleman, there must be some mistake. I'm a dentist, not a plastic surgeon.”
(諸君、これは何かの間違いに違いない。私は形成外科医ではなく、歯科医なのだよ。)

彼はいいひとなのだ。そんな実直でいいひとな性格が災いし、彼はエイリアンたちにまんまとさらわれてしまう。どこへ? 銀河中の「歯医者を待ちわびている」エイリアンたちのもとへだ。確かに歯の疾患は実にやっかいなものである。しかし、よもや銀河規模でエイリアンたちが虫歯に悩まされているとはDr. Dillinghamも知る由がなかった。

Dr. Dillinghamが連れられた先は地球の遙か遠く、北ネビュラ。彼ら”Enen”と呼ばれる種族は地球より遥かに進んだテクノロジーをもつものの、口内疾患にはお手上げらしい。しょうがないので、2体の”Enen”を適当に「Holmes」と「Watson」と呼んで、さまざまなエイリアンの治療依頼に地球の治療技術と”Enen”のテクノロジーで対応することとなった。彼は報酬として銀河で流通している”Frumpstiggle”というお金のようなものを得て、それをせっせと貯めていた。いつか地球に還ってフロリダでリタイアしたかったのだ。まじめだ。

”Enen”とのコミュニケーションは”message stick”という棒を”Enen”がカジカジして、それを” Transcorder”という解読器に通してプリントしてようやく理解するという、実に遠回りな方法をとるのだが、”Enen”のカジカジが異常にに速いのでそこそこの情報量が得られる。ただしどんな急を要するピンチでもカジカジの時間が必要なのがおかしい。

”Enen”は銀河の”muck a muck”(顔役)、”Gleep”というクジラのような種族を紹介する。”Gleep”もまた歯痛に悩んでいたのだ。大変な思いをして、24トンもの金を注ぐ金歯治療を敢行し大成功。”Gleep”は彼を大変気に入って”Enen”からDr. Dillinghamを買い取りたいという。で、簡単に売られてしまう。”Enen”によれば、地球でもメジャーリーガーを金銭で売買するだろう、という論理らしい。

こうしてDr. Dillinghamはさまざまな異星の患者に対応してゆくにつれ、さながら銀河規模のわらしべ長者のごとく、立場がアップグレードしていく。そんなおり、心動かされる情報が彼の耳入る。銀河には、銀河規模の歯科大学があり、銀河中の向学心にあふれた歯科医師のたまごたちが入学のためにしのぎをけずっているというのだ。彼はぜひとも入学したいと熱望する。やはりまじめなのだ。

大学入試にむけて、さまざまなエリートエイリアンたちとてんやわんや。やがて遺跡に埋まっていた、ふたことめには”None but I shall do thee die!!”(我のほか、なんんぴとたりとも汝を死に至らしめん!!)と吠えてストーキングしてくる巨大守護神ロボットJannとも遭遇。

一方おいてきぼりを食らっていた歯科助手Miss GallandもなんやかんやでDr. Dillinghamの後を追って銀河をさまよう羽目になる。

二人の運命やこれいかに・・・という感じだ。

物語はこのように結構少ない「ユーモア・スペースオペラ」とでもいうジャンルか。歯の治療がもちろんメインだが、テーマは身勝手なエイリアンたちとの意志の疎通の問題である。とにかく偏屈なのがいっぱい出てくる。そしてそれにひるまず、常に実直に対応するDr. Dillingham。タイトルの”Prostho Plus”は技術+実直という意味ではなかろうか。

”and he could not accept credit for more than he had done. It was against professional ethics.”
(そして彼は成した仕事以上の料金を受け取ることはできなかった。プロフェッショナルとしての倫理に反するのだ。)

とってもいいひとだ。
ちなみに著者について調べてみて気がついたのだが、お名前が正式にはPiers Anthony Dillingham Jacobだそうな。そう、Dr. Dillinghamは自分の名前にちなんでいたのだ。どこか自身を投影しているところがあるのだろうか。名前でいえば、Dr. Dillinghamを追って銀河をさまようMiss Judy Gallandも映画『オズの魔法使い』のドロシー役でおなじみの永遠の少女アイコンJudy Garlandと一文字違い。こんなところも著者の遊び心を伺わせる。

本作は、「実直の人は銀河でも通用する」という幸せな物語であり、もちろん読み手も幸せな気分に浸ることができる。なかなか意外な展開も多く、たのしませてれるまことに隠れた名作ではないだろうか。
実直なDr. Dillingham、かわいらしいMiss Gallandそして木訥な巨大守護神ロボットJannのトリオはなかなか魅力的で、ひょっとして続編でもないものかとちょっと調べてみたが、どうもこれ一冊のようだった。残念である。冒頭紹介した『魔法の国ザンス』シリーズもいつか読んでみたい。





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