The Computer Connection / Alfred Bester





混濁の海原にたたきこまれる感覚



18冊目。
Alfred Besterの”The Computer Connection”(1975)を読了。かつてサンリオSF文庫収録(『コンピュータ・コネクション』)だったが例によって現在は絶版。2018年1冊目である。

Besterの作風は、少々過剰で独創的な世界観の中を縦横無尽に駆け巡るような、読み手の感覚を強く刺激する物語性とともに、それをあまりまとめようという意思の感じられない、ある種大風呂敷を広げるタイプのスペース・オペラで、日本では”ワイドスクリーン・バロック”とよばれているらしい。『虎よ、虎よ!』、『分解された男』は読みやすく、中学生の時分に興奮して読んだ記憶があるがこの一冊はサンリオSF文庫ということもあって、あまり視野にはいっていなかった。さてどうだろうと手にとってみたのだが、シンプルなタイトルと比べて、とんでもなく読み手を混濁の海原にたたき込む強烈な一冊であった。


アウトラインの紹介も兼ね、まずはアイディアの風呂敷を広げてみよう。



[舞台設定]

●21世紀終盤、地球が人口問題を抱え、太陽系内の星間航行が時間をかければ可能となった未来世界が舞台である。
●90%の人類は脳に生まれたとき”bug”を埋め込まれ、当局にモニターされている。
●"Extro"とよばれる巨大コンピュータネットワークによって全世界が管理下にある。
●一般的な人類は知性が劣化し、”Spanglish”と呼ばれる一種の俗語か、あるいは極端に短縮した”Machine Language”といった言葉しか使えなくなっている。(一例:”Y”=Yes、”R”=Right、”090-N READ”=I can’t understand a goddamn thing you're saying(笑))



[Moleman]

●非常にまれだが、実は永遠に生きる人類がいた。かれらは”Molecular Man”(「分子人間」:Moleman/モールマン)と呼ばれる。
●ある種の発作傾向を持った者が仮死状態となり、一旦肉体的な死線をさまようとその衝撃で”Moleman”となる。その瞬間から永遠に生きる不死性を獲得するのだ。
●”Moleman”は不死であっても、たとえば首を切り落とされる等の致命傷では死んでしまう。
●”Moleman”は人類発祥以来、ぽつりぽつりと生まれていた。かれらは連帯し互いに助け合う”Group”とよばれる一つの家族のようなコミュニティを形成していた。
●”Moleman”は長い時代を生き抜いているため、非常に知的(an educated type)で、言葉も過去の時代の芳醇な英語を好んで使っていた。過去の英語は”Group XX English”(グループの20世紀英語)あるいは単に”XX”と呼ばれていた。
●”Moleman”は互いに本名では呼ばずニックネームで呼び合っていた。以下が登場する”Moleman”一部。ただし単に「ニックネーム」なのか本当に「歴史上の偉人本人」なのか判別がつかないところが悩ましいところだ。これで全てでは無く、しかも、のメインキャラ以外は「”Group”だから招集されました」「おう、キミかい、ナイスタイミング!」的に一瞬登場するだけなので、なかなかのご都合主義感。

Grand Guignol(Guig)(本編の主人公。血なまぐさいやつ、くらいの意か)/本名Edward Curzon
M'bantu(ほとんどの動物の言葉を話せるズールー族、Guigが信頼を置いている)/本名Macbee
 Sam Pepys(”Group”の歴史家)
 Beau Brummell(典型的な美男子)
 Bathsheba(ダビデの妻、しかし魔性の女の設定)
Greek Syndicate(”Group”の財務担当)/本名Poulos
 Tosca(女優)
Jace(医務担当)
H.G.Wells(一時的な時間旅行を行う技師)/本名Herb Wells
Hic-Heac-Hoc(”Group”最古参。ネアンデルタール人。無知性の猿人)
 Captain Nemo
Edison(電気技師)



[Pluto Mission]

●主人公Guig(Moleman)は”Group”を増やすため、これはという人物を”candidate”(候補者)にさだめ、一旦ぶち殺し、Molemanとして蘇生させる試みを行っていた。そのために”time-shot”(過去への時間旅行)もしたりしたが、いままで上手くいったためしがない。
●GuigはFee-5という13才の中国系の孤児の少女を養子にしていた。Guigから”XX”の教育を受け、非常に知的に育っていた。彼女の耳は受信機のように空中の様々な周波数の情報を選別する特殊能力があった。
●Guigは天才的な物理学者、Dr. Squoya Guess を次の”candidate”(候補者)にさだめた。Dr.Guessの出自は純粋なチェロキー族で、NASAの”Pluto Mission”(冥王星への入植計画)を推進する主幹だった。
●”Pluto Mission”は最速でも数年かかる惑星間航行を効率化すべく、一旦乗員を極低温下に管理されたカプセルで冷凍保存状態に置く"cryogenic flight"(低温航行)の実験を行っていた。
●Dr.GuessはFee-5の才能に惚れ込み、Fee-5もDr.Guessの人柄に心酔していた。Fee-5はDr.Guessの研究室に招待され、保護者としてGuigも帯同した。折しも、"cryogenic flight"(低温航行)の実験のために、3人の有志が"cryonaut"("astronaut"が宇宙飛行士だから、低温飛行士かな)として実験に身をささげようとしていた。



[The Computer Connection]

●実験は行われた。が、3人の"cryonaut"は、なぜか胎児となってしまた。ショッキングな結果にDr.Guessは発作で仮死状態となり、蘇生すると、見事”Moleman”とあいなった。
●が、それだけにはとどまらなかった。実験失敗の瞬間、"Extro"(巨大コンピュータネットワーク)とDr.Guessは連結してしまう。Dr.Guessは"Extro"と共生、あるいはコラボ、あるいは共存、あるいはパラサイトされ、結局ある種"Extro"の"switch"と化してしまった。
●この顛末の背景に、なんと”A renegade Moleman”(裏切り者のモールマン)の存在が浮かび上がった。
●また、胎児となった"cryonaut"は、聴覚以外退化した"hermaphrodite"(両性具有)の"new breed"(新人類)となり、"Extro"はDr.Guessを使って旧人類と置き換えることを画策し始めた。
●Guigたち”Group”は、"Extro"のスパイ・ネットワークと”A renegade Moleman”(裏切り者のモールマン)から追われることになる。

反撃の糸口はあるのか? 裏切り者の正体は? Dr.Guessはどうなる?



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[読後]

物語は各登場人物たちの(たぶん)軽妙で(おそらく)知的な会話を軸としたかった様子なのだが、いまいちシャレていない。前述したように、何冊も物語が書けそうなアイディアが惜しげも無く詰め込まれているのだが、それぞれの連結も希薄で、さして掘り下げているわけでもない。サイバーパンクな物語かと思いきや、なんだかチェロキー族のDr.Guessの妹と結婚したりして、エコな精神世界に収束していく。
本編はあまりにも多くアイディアを未整理のまま脱ぎ散らかしているため、いったい本筋はどこにあるのかいちいち困惑してしまう。とはいえ、確かに「”Group”の存亡を賭けた戦い」という一本の筋は通ってはいるのだが・・・。
恐らくBesterが意図して混濁させているというよりは、なんだかこうなっちゃったという、行き当たり感が非常に強く、読む方も実に疲れる。ただしずっと「おもしろそう」という期待値は持続するという不思議な味わいがある。そういう意味で、本編はこの混濁の海原を素直に体感する、と言う読み方が正しいようだ。しかし、これをいったいどのように翻訳されたのだろうか非常に気になる。 

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[おまけ]


Besterの趣向で、『虎よ、虎よ!』や『分解された男』では、物語の佳境で、タイポグラフィックなギミックが効果的に使われているが、本編では成長した"cryonaut"たちがコミュニケーションの手段に歌のような旋律を発するという不気味なシーンで、のどかに譜面が出てきた。気になったので音にしてみたが、まあ古いカソリックの教会音楽のような荘厳な雰囲気であるが、それ以上の意味は見いだせない。そういえば映画『未知との遭遇』はこんな感じだったか。





音量にご注意ください!

左ページの3つ

cryonauts solo1


cryonauts solo2


cryonauts solo3



右ページの2つ

cryonauts solo long


cryonauts chorus

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