Tales from the "White Hart" / Arthur C. Clarke






SF+ユーモア、巨匠のひそかな怪作



22冊目。
Arthur C. Clarkeの"Tales from the "WHITE HART" "(1957)を読了。
ハヤカワ・SF・シリーズ、ハヤカワ文庫SF版(『白鹿亭綺譚』)は絶版の模様。

Clarkeといえば『地球幼年期の終わり』などの正統派のSF、あるいは映画『2001年宇宙の旅』を思い出すが、実のところそれほど読み込んではいない。純文学で言えば漱石はあまり読んでいない、みたいな、ちょっと巨匠過ぎてつい後回しになってしまった感じの作家である。邦訳の『白鹿亭綺譚』というタイトルは昔から目にはしていたが、たまたま原書を入手したので今回ようやく読む機会を得た。


まずはArthur C. Clarkeの序文の文末からみてみよう。

"Finally, a word to any readers of my (pause for modest cough) more serious works, who may be distressed to find me taking the universe so light-heartedly after my earlier preoccupation with such themes as the Destiny of Man and the Exploration of Space(Advt.) My only excuse is that for some years I've been irritated by critics who keep claiming that science fiction and humor are incompatible.
Now they have a chance to prove it and shut up. New York, October,1956"

最後に、「the Destiny of Man」や「the Exploration of Space」(宣伝でございます)のような、私が当初夢中になっていたテーマを扱った(オホン)よりシリアスな仕事のあとに、またずいぶんと軽い世界を扱ってるな、と悩ましく思っておられる読者のみなさまへひとこと。私の唯一の言い分は、ここ数年、SFとユーモアは相容れないという批評家筋にいらついていたのです。
というわけで、こうして証明してやって、そいつを封じるチャンスが到来したのです。 
1956年 10月 ニューヨークより



舞台はこんな感じだ。

"Fleet Street"(80年代までロンドンの新聞街)からテムズ川の堤防へと続く路地に不意に現れるパブ"White Hart"(白鹿亭)の外観はほかのどんなパブとも変わらない。これと言って特徴のない外観で、あえてここへ来ようと思って来る人はまれだ。印刷所の輪転機の振動でいくぶん揺れる店内には、現代風なのはかろうじて置いてあるジュークボックスくらいで、あとは時が止まったように、プライベートバーに冷えたグラス、カウンター越しに並ぶボトル、という風景だ。トイレの窓からはテムズの流れを望むことができる実に平凡な店だ。

"White Hart"は3種類の客層に分けられる。まず"Fleet Street"から流れてくるジャーナリスト、記者、編集者たち。次に道は挟んだ対面のBirkbeck Collegから流れてくる科学者や教授たち。そしてそれ以外の興味深げな一般客たちだ。そして全員が一堂に集う水曜日、そこでは考えられないような話がまことしやかに語られるばかりでなく、ハプニングもあったりで決して飽きることにない。

さて、語り手はArthur C. Clarke本人であることが、最後の"THE DEFENESTRATION OF ERMINTRUDE INCH"(『アーミントルード・インチの窓外放擲』)でもわかるのだが、彼が紹介するのは、水曜の夜"White Hart"にふらりと現れては面白話を披露して、皆を満足させる極めつけの人物、学士であり(少なくとも)、博士号もあり(多分)、(英国王立協会フェローである(という噂だが、怪しいものだ)、Harry Purvisの語る数々の物語(あるいは大ほら話?)である。

さて、Harryの話を聞いてみよう・・・。




SILENCE PLEASE『みなさんお静かに』

とある水曜日、店内はいつものように喧噪に包まれていた。おりしもBert Hugginsの大声で騒ぎ始めた時、「やつを黙らせる手はないのか」という誰かが叫んだ。「あるさ、知ってるかい」パイプをくわえている以外は目立つところのないHarry Purvisが語りだした。それはこんな話だった・・・。
Rupert Fentonは若い研究助手だった。彼は天才的なひらめきをもった発明家である反面、理論の方がまったく伴わないという、非常に偏った能力の持ち主だった。あるとき彼はある音に対して、その音波と逆位相の音波を干渉させることで無音にしてしまう基本原理を使った"Fenton Silencer(消音機)"を製作する。しかし彼の人のよさと理論音痴が災いし、とんでもないことに・・・。





BIG GAME HUNT『ビッグ・ゲーム・ハント』

おもしろ話の提供にかけては無敵と認められていたHarry Purvisであっても、けして無敗ではなかった。ホームグランド、パブ"White Hart"(白鹿亭)で、Harryが負かされたいきさつはこうだった。
Hinckelberg教授は、レンタルしたらしい巨大なフィッシュテールのキャデラックを、狭い路地にどういうわけかうまく無傷で滑り込ませてきた。彼は米国からやってきた動物学者で、来るやいなや、10秒間で彼の全てがわかるほどの早口でまくし立てた。曰く、海軍の依頼でプランクトンのリサーチに携わっていること。曰く、ロンドンのはピンクで英国ビールのようだと。曰く、「サイエンス」誌で"White Hart"を知ったこと。などなど。通常こうした手合いに、Harryは相手の話の欠陥を見つけ、そこをきっかけに相手をコテンパンにしてしまうのだが、今回は少し引き気味で眺めていた。Hinckelberg教授は満を持して「Grinnell教授の実験」について語り始めた。それは動物の神経系統に流れる電流を電気回路で解析し、同じインパルスを"playing back"(再生)することで、その動物をコントロールするというものだった。Hinckelberg教授は一度だけ実験を見たという。Grinnell教授はさすがに人間に試す危険は犯さなかった。この実験に食いついたのがJackson教授だった。彼は"publicity-hunter"(目立ちたがりのハンター)で、ゴビ砂漠やアマゾンに乗り込んでは、ベストセラーの旅行記や、記録映画などを製作していた。そして、彼は動物を自由に操ることのできるGrinnell教授の装置に目をつけ、彼とその装置を携え未知なる大物のハンティングに行くことになったのだった・・・





PATENT PENDING『特許出願中』

Well, if there was any truth in that story --- and frankly I doubt it ---the whole project was probably inspired by Julian's papers in Conptes Rendus.
ふむ、多少なりともそこに真実があったとしても --- まあ正直私は疑わしいとは思っているのだが--- あのプロジェクトの一切はだね、Julian教授の報告書に触発されたものと私は睨んでるんだよ。


前回の水曜日、Harry Purvisは珍しく黙らされたことへのリベンジなのか、今宵は(前話"BIG GAME HUNT"の)Hinckelberg教授の実験を真っ向う否定するところから始めた。かの実験は、フランスの実験的な生理学者Julian教授の特異な研究の成果によるものであったというのだ。ラボに億単位のフランが落ちていると気づいたアシスタントのGeorgesがこっそり"playing back"(再生)を製作したのだ。と、ここまで話の流れは前回の話と類似してたが、Julian教授の研究は、人間の神経系統に流れる電流を電気回路で解析し、"playing back"することで、「追体験」できる装置だったのだ。Georgesは人間の根源的な欲求である、「食」と「性」の「追体験」に目を付けたのだが・・・





ARMAMENTS RACE『軍拡競争』

Harry Purvisは、今週は"White Hart"に珍しく友人を帯同していた。友人の名はSolly Blumberg、ハリウッドに特別な影響力を持ち、この度英国の映画産業に尽力するために来たのだという。しかし彼は一見して貧相で、何やら難儀を抱えているようだった。Harryは彼に代わって事の顛末を語り始めた。
Sollyは子供番組"Captain Zoom" の特殊効果を担当しており、その時もファーストシリーズ" Captain Zoom and the Menace from Mars" の舞台となる火星を、監督の要求に従って製作していた。おりしもCaptain Zoomとレーザーガン手にした悪の皇帝Kluggの軍勢との戦いという場面を迎え、監督はSollyに発注していたレーザーガンの試作1号を見たところ、スーパーの玩具にも劣るあまりのダサさに激怒し、再考を要求した。そこで、次はテレビモニターの付いた試作2号を製作したのだが、どこかリアルではなかった。そうして次のEpisode54 "ナメクジ男の捕囚"でできるだけ独創的な試作3号を創るように命じられた。こうしてハリウッドの"Ars Gratia Artis"(芸術至上主義)によって、彼はとんだ「軍拡」をしていかなければならなくなったのだった。やがて、それが彼を思いもよらない結果を強いられてしまう・・・。




CRITICAL MASS『臨界量』

「きみにこの話はしたっけかね」Harry Purvisが控えめに話しかけてきた。「私が南イングランドの避難を防いだことを。」来たぞ(笑)。というわけで、彼はこんな話を続けた・・・。
それは2年前Clobham近郊の原子力研究施設で、わずかな期間、彼がそこで働いていた時の出来事だった。「ちょっと話せない特別な任務でね」とあいかわらず興味をそそらせる導入がずるい。それは春も深い、のどかな土曜の午後だった。窓から遠方にClobhamの丘のスロープを見下ろすバー"Black Swan"で、その日は科学者たち6人とのんびりしていた。はじめは地元の労働者から距離を置かれていたが、ダーツで負かしたり、いっぱいおごったりしてるうちすっかり仲良くなってしまった。おりしも一台のトラックが丘のスロープを下っていったのが見えた。地元の親方Stanly Chambersが、先週施設から病院へ、アイソトープが運ばれていたのを目撃したという。「膨大な鉛で安全に囲わなくてはならないんだ。だれかが扱いを間違えたりしたら剣呑だぜ・・。」と、そのとき異変が起きた。かのトラックが道をオーバーランして側溝にはまり、横倒しになったのだ。謎の積荷が投げ出され散乱し、ドライバーはなにやら叫びながら、その場から一目散に逃げていったのだ。一部始終を窓から眺めていた"Black Swan"の面々の顔色がにわかに青くなっていった。眼前に、最悪の事態が起こってしまった、と誰もが思った・・・。





THE ULTIMATE MELODY『究極の旋律』

2~30人の人間が一部屋の中で話し込んでいるさなか、何かの拍子で突然全員が静まって、思いがけない一瞬の沈黙が訪れることがある。その夜、"White Hart"でもそれは起こった。沈黙に耐えられなかったのか、Charlie Willisが、はやりのヒット曲のメロディを口笛を吹いた。それが、Harry Purvisから聞いた最もやばい話の引き金になったのだ。
「良い曲が何日もの間、頭の中で曲がぐるぐる巡ってることってあるだろう。」Harryが語り始めた。Gilbert Listerは脳生理学者で、音楽が脳に与える影響を研究していた。彼は曲そのものにはまったく興味が無く、α波、β波、その他の振動と脳のリズムに強い関係があることに興味を持っていた。彼は膨大なデータをもとに、あらゆる波形を再現するシンセサイザー"Ludwing"を開発した。そしてプラトンが理論を構築しようとした「究極のメロディ」を模索していたのだ。しかし"Ludwing"はまだ試作の段階にあり、メインサーキットはまだセットアップされていなかった。それゆえ、実験は思いがけない結果を生んでしまった・・・。





THE PACIFIST『反戦主義者』

"Look," said John Wyndham anxiously. "Before you start, be a good sport and let us get our glasses filled. Drew!"
「よぉ」John Wyndham(!)がたまらずに言った。「きみが話を始める前にだな、男らしくつきあえるように、われわれのグラスを満たしとこう。たのむぜ、Drew!」


夜も更けた頃、"White Hart"の角のダーツ台の下で皆が集まってあるものに興じていた。それはErickが持ち込んだ電子ゲーム機だった。単純なTick-tack-toe(3目並べ)のようなのだが、誰もマシンには勝てないようだった。Erickは遠巻きに眺めていたHarry Purvisを誘ってみたが興味ないようだった。かわりに「この話はしてないだろ? 」と例によって例のごとくだ。
"Clausewitz"計画。それは、設計責任者Milquestoast博士と、有能な50名の科学者らが進めていた軍事戦略用巨大コンピュータ"Karl"の開発計画のことである。しかし計画の進行には問題があった。管理責任者である、Smith将軍は根っからの軍人で、技術畑の人間を見たこともない人種であった。将軍は遅延を重ねているスケジュールに業を煮やし、Milquestoast博士らに辛辣に当たるのであった。こうして軍と科学者たちの関係悪化が"Karl"を、思わぬ方向に導いてしまった・・・。





THE NEXT TENANTS『隣の人は何する人ぞ』

"Let him get on with story," said Drew, from the other side of the bar. "I'ts past ten, and if I can't get you all out by closing time this week, I'll lose my license."
「話を聞いてあげなよ。」Drewがバーの反対側で言った。「10時を回っちまってる。今週閉店までみんなを追い出さないと、営業許可書を取り上げられちまうぜ。」


"White Hart"の片隅でHarry Purvisがある物語を語り始めると、とりまきがついつい茶々を入れて時間を食ってしまう。今宵の物語でもそうだった。それは、世界征服をたくらむ不思議なマッドサイエンティストについてだった。2年ほど前、彼はとあるミッションで極秘裏に太平洋上のビキニ諸島千キロと離れていないサンゴ礁に、探知器機を設置していた。(40~50年代、冷戦下に繰り返された核実験のことを示唆しているのだろう)さて、サンゴ礁に降り立ってみると、無人と思われていた数百万の住人がいたという。「なんだって!」「どうしたらそんな?」一同が驚いてまたまた茶々を入れるとHarryは、「ともかくだ、話し手は私だろ?」と。そうして彼はその中の一人との出会いについて語り始めた。ココナッツパームの下を歩いていると近代的な水車を目にした、さらに行くと巨大な塚のような建物の集落を見つけた。しかも中から長身で白髭の男性が驚いたことにガイガーカウンターに見える非常に近代的な装備で出てきたのだ。その男は日本人の生物学者で、Takatoと名乗った。HarryとTakato教授は気が合い、しばらくともに過ごし、教授のある研究を知ることとなった・・・。





MOVING SPIRIT『とにかく呑んべは』

"I was once an expert witness in a rather interesting case."
"Only a witness?" said Drew, as he deftly filled two glases of Bass at once.
「私はね、かつて結構面白い裁判で、専門家として証人になったんだよ。」
「証人だけかい?」Drewが2杯のグラスを同時にBass(英国を代表するビール)で満たしつつ言った。


さてさて、今回はHarry Purvisが関わった、非常に奇妙な裁判の顛末である。Homer Fergusonは少々変わりもではあったものの、裕福で、しかも有能な科学者であった。ある日彼から連絡が来る。Harryは生存している彼の数少ない親族だったのだ。なんと彼が実験室で実験の最中爆発を起こしてしまい大けがをしてしまったのだという。Harryが見舞いに行くと、実は密造ウイスキーの蒸留もしていたことを知った。しかも悪いことに、爆発で駆けつけた地元の警備にそれが発覚してしまったのだ。Homer Fergusonは密造・脱税の容疑で裁判にかけられることとなる。Harry は親戚のよしみで裁判の証人として彼とともに出廷した。もちろん専門的な見地から、言い逃れのブラッフをかますために・・・。





THE MAN WHO PLOUGHED THE SEA『海を掘った男』

今回もHarry Purvisが米国にいた頃の、あいかわらずもっともらしいのだが真偽のほどは定かでない体験談である。ボストンで弁護士として成功していた旧友のGeorgeに会いに行き、二人で休暇を取ることになった。富をつかんでいたGeorgeは真っ赤なジャガーでマイアミからフロリダの先端までヒヤヒヤな運転でぶっとばし、キーウェストの海岸に着くと、今度は彼の豪華なクルーザーに乗り込み、さらにそこから船内に格納されていた自作の小型潜水艇"Pompano"に乗り込んで深海へと潜った。Harryは未体験の冒険に躊躇するも、さきほどの運転よりはましかと潜水艇に乗り込んだ。息をのむほどに美しく平和で静かな海底を楽しんでいると、彼らの頭上を不思議な船が通過する。その船の船底はトンネルが貫かれていた。船名も"Valency"(原子価)という一風変わったな名前だった。好奇心からその船を追跡していると、なんと"Valency"に捕獲されてしまう。船のオーナーGilbert Romano博士だった。70代の彼は、化学者にしてビジネスの巨人、生けるロックフェラーかデュポンのような風格であったが、成功の割に世の中ではほとんど知られていなかった。幸い道理をわきまえた人物そう、とHarryとGeorgeはひと安心したのだが・・・。





THE RELUCTANT ORCHID『尻ごみする蘭』

"White Hart"の面々でHarry Purvisの話が真実だろうと考えるものはほとんど無い。そしてこの話もまた、非常にうそくさい度が高い。
今回のヒーロー(?)の名はHercules Keating、ヘラクレスという名のわりに小柄で無害な店員で、社交的でない彼の友人は、ガーデニングで大切に育てているプランツたちだった。ただし彼には唯一の同居人がいた。彼女の名はHenrietta、彼の実の叔母であった。彼女は彼と何もかも対照的。180cmと大柄で、向こう見ずにジャガーを転がし、チェーンスモーカーで派手なタイプ。どこか異星を見下しているところもあった。彼は彼女の態度に我慢ならず、コンプレックスも鬱積していった。ハグやキスをされそうになると殺意さえおぼえた。あるとき彼の大事なプランツたちに、不思議な蘭が加わったのだが・・・。





COLD WAR『冷戦』

「ときどき目につくんだがね。」Harry Purvisだ。「新聞のちっぽけな記事の切れっ端が、数年後にようやく決着するまでが、どれだけじれったいことか。」今回のちっぽけな記事とは、1954年4月19日、フロリダ沖に氷山が流れ着いたという報道である。数年後Harryは、もと海軍中佐のDawsonと知り合い、フロリダ沖の氷山の顛末を聞かされたのだった。
フロリダは常に太陽の州と主張し、他の州と競っていた。特にカリフォルニア州はその主張は侮辱とさえ見なしていた。Dawsonは軍をリタイアし、現在は潜水艦を利用した撮影のテクニカルアドバイザーをしていた。あるとき彼は奇妙な依頼を受ける。結構な予算を使って、人造の氷山をフロリダ沖まで運ぶというものだった。暇をもてあましていたDawsonには嬉しい依頼だった。どうもカリフォルニアの商工会議所が絡んでいるようだったのだが・・・。





WHAT GOES UP『登ったものは』

パブ"White Hart"をわれわれのとっておきの場所にしておきたいので、自衛手段として所在地はあえて記述しない。しかし、時として妙なビジターの襲来を食らうこともある。しかし今回の"Flying Saucer religion"(UFO教)の面々は最悪だった。小さな黒かばんからおびただしい量のUFO文献、UFOの証拠写真、UFOで月を廻った男の記録などぶちまけた。こういうときは、堂々と信者たちの盲信の欠陥を突くことにかけてはエキスパートのHarry Purvisの出番だ。Harry は彼らの唱える「磁力線(反重力の源)」のくだりを聞いて、感嘆したそぶりを見せながら"latter-day Munchausen"(現代のほら男爵)たちを鼻で笑った。そして満面の笑みで歓迎されない客たちに向かって、反重力にまつわるオーストラリアで起きたかつてない恐るべき物語を語り出したのだった・・・。





SLEEPING BEAUTY『眠れる美女』


"White Hart"ではさまざまな妙な名前が話題に上がっていた。そこでHarry Purvisは、名前が人生全体に及ぼした男の話を始めた。
彼の名前はSigmund Snoring("Sigmund"で著名なのは「夢判断」でおなじみ精神科医のフロイト。"Snoring"はいびき。「いびきかきのフロイト」ととれるのか)「おいおいマジかよ」Charles Willisが茶々を入れた。Sigmundはユダヤ系の裕福な家庭に育った。育ちのよい彼の悩みは名前のごとくはた迷惑な「夜のいびき」だったが、寝室を防音にして家族と隔てることで深刻な問題にはならなかった。ところが彼も結婚をすると、嫁のRchelは彼のいびきにハネムーン早々から悩まされ、目を真っ赤にして憔悴し、すぐに最後通牒を突きつけてきた。結婚生活崩壊の危機にSigmundは意を決し、叔父で著名な生理学者のHymieの研究室を訪ね、彼の悩ましいいびきの治療を懇願した。多少金に困っていたHymieは、引き替えにある程度の治療費を求めた。Sigmundは大叔父のReubenの遺産があったのだが・・・。





THE DEFENESTRATION OF ERMINTRUDE INCH『アーミントルード・インチの窓外放擲』

"DEFENESTRATION"(窓から放り投げる)というたぐいの(こむずかしい)言葉は、聞きかじった大学を出たばかりの青二才が使うくらいで、滅多に使わない言葉だが、Harry Purvisのストックに"DEFENESTRATION"にまつわる話がひとつあった。
彼の名はOsbert Inch、BBCでサウンドエンジニアをしていた。彼は仕事上、他人の会話をひたすら聞き続け、実は家に帰ると嫁のErmintrudeの切れ目ないおしゃべりを聞かされ続けていた。Ermintrudeの生来のおしゃべりな性質にOsbertは我慢できなくたっていった。そこでサウンドエンジニアの技術を使って、ある装置を自宅に設置したのだったのだが・・・。


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本書はClarkeのイメージとはかなり離れた「SF+ユーモア」という予想外のジャンルだった。短編集なので次はどんな話を聞かされるのか期待しながら、膝をたたくほど爆笑という訳ではないが、しかしよくよく読めばどことなくClarkeの哲学をうかがわせ、ついクスリとしてしまうような妙味のある一冊だ。こちらも木曜の"White Hart"の一員となって、Drewのついだ冷えてないBassを片手にHarry Purvisの話に耳を傾ける気分になるのもおつである。もっともっとHarry Purvisの話を聞いてみたいのだが、すっと幕を引くように最後の一編でClarkeはきれいにまとめてくれる。このあたりの几帳面さも、Clarkeならではなのではないかと思う。
本作の雰囲気を無視したDELREY版の表紙絵は全くいただけない。やはり早川版に軍配が上がるかな。



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