Up The Line / Robert Silverberg






新米時間旅行ツアーガイド君の憂鬱



23冊目。
Robert Silverbergの"Up The Line"(1969)を読了。
邦訳は真鍋博画伯の表紙絵の『時間線を遡って』(東京創元社)が懐かしいが、後に表紙絵が少しリアルな感じに変更され、いずれも絶版状態。しかし、近年『時間線をのぼろう【新訳版】』(東京創元社)と装いもあらたに読むことができる。

それではまずはアウトラインを。

“Isn't it risky?” I asked.
“Just take your pills and you're safe, and so is she.”
“I mean the Time Patrolー”
“You make sure they don’t find out,” said Metaxas.
“That's way it isn't risky.”
“If you happen to pregnant, you might become your own ancestor.”
“Groovy,” said Metaxas.

「危なくないのか?」俺は尋ねた。
「ピルさえ使えば安全さ、彼女もね」
「じゃなくて、タイムパトロールがさ・・・」
「やつらに見つからないように、上手くやればいいのさ」Metaxasが言った
「そうすりゃ危険なことなんかありゃしない」
「もし妊娠したりしたら、あんた、自分の祖先になるんだぜ」
「そりゃいい」とMetaxas。



タイムトラベルで過去に飛び、自分の遙かご先祖とセックスを楽しんで“Groovy“。そんな性的オブセッションを持った妙な先輩から、妙に影響を受けてしまう、24歳の社会人になりたての青年、本書の主人公Jud(Judason Daniel Eliott III)だ。

時は2059年の春、Judは退廃的な気配の漂うニューオリンズの街を徘徊していたところ、娼婦を囲っていた黒人の巨漢Sam(Samuel Hershkowitz)と出会い、彼のサイケな部屋で同居を始めた。Judはハーバードやイェール、プリンストンといった名だたる大学でビザンチン史を修めた高学歴の持ち主で、卒業後叔父の口利きでせっかく法曹界の職についたにもかかわらず、すぐに心を病んでしまい、ものの8日間で職場放棄して逃げ出してしまったのだ。そんなところをSamに拾われたのだった。

Judは自信に満ちたSamに一発で心酔し、彼を“guru“(導師)と呼んだ。青年は影響を受けやすいのである。彼はSamが勤務する“Time Service“(タイムトラベル事業)にも興味を惹かれた。実は20年ほど前に、タイムトラベルを可能にする理論“Berchley Effect“が発見されていた。時間旅行時代の幕開けである。余裕のある者は海外旅行でも楽しむように、史実の現場の目撃をしに時間旅行にくりだすようになっていたのだった。

“Time Service“の事業には2種類あり、ひとつは“Time Couriers“(時間案内人)と呼ばれる、いわゆるツアーガイド。もうひとつが“Time Patorol“(時間警備)であり、時間旅行の乱用によって起こりうるパラドックスを未然に発見し、潰し、場合によっては当事者を処刑してしまう怖い存在である。パラドックについては後述するとして、同じ傘の下の2事業でありながら、なぜか互いに反目しあう関係でもある。

「おまえさんはだな、強迫観念にとらわれた負け犬なんだ。」
娼婦に溺れひきこもっていたJudは、Samにずばり痛いところを突かれ、奮起して彼の紹介で“Time Couriers“に就職してしまう。新米ツアーガイド君の誕生である。もともと高学歴であったこと、ビザンチン史に通じていたことが幸いし、うまいことリクルートに成功した。

ユニークなのはタイムトラベルの方法だ。まずズボンを下ろして、“timer“と呼ばれる帯のような装置を肌身離さず腰に巻く。帯に装備された「年月日時分」まで調節可能なダイヤルを操作して、“Berchley Effect“の理論のもと、時間の転移の波に同期、“riding the time wind“(時間風に乗る)するのだ。いわゆる“shunt“(時間の分岐)である。過去に遡るのが“up the line“、本書のタイトルだ。現在に戻る方は“down the line“。ちなみに“up the line“した時にヒト・モノがある場所にかぶって実体化した場合、自動バッファが働き、元のスタート地点の時間に戻される。事前に綿密に下調べし、どんぴしゃの時ところに“shunt“し、一切の無駄を省くのが“Time Couriers“で粋とされている。

“shunt“にはルールがあって、“up the line“した分しか“down the line“できない。また自分の未来にも行けない。過去に戻って、またスタート地点に戻るだけである。

さて、新米“Courier“となったJudは、同期の仲間とともにノービス講習を受け、指導教官から時間旅行の歴史とともに、危険なタイムパラドックスについて学ぶ。で、講習の合間は仲間とセックス。きみはそればかりだな。まあ、それはそれとして。講習で語られたタイムパラドックスについてまとめてみよう。

[第一の問題]  “Time Travel Paradox“(時間旅行のパラドックス)

過去はすでに固定された“real event“(現実の出来事)。わずかな過去の変更も、後に甚大なカタストロフィを生じさせる。なので、時間旅行の際は、目立たず、余計なお節介をせず、常に傍観者でなければならない。

[第一の問題の解]  

たとえば時間旅行先でツーリストがキリストを毒殺したとする。“Time Patorol“が現場を押さえ、確認の後、一旦未来の出発点に戻り、出発前の犯人を死罪にする。歴史の書き換えは最初から無かったことになる。ちなみに“shunt“中は、時間軸の本流と分離しているので、“Time Patorol“はこうして歴史の修正の修正が可能になる。
ただし、こうした目立つ改変は押さえやすいが、たとえばアリを踏だりした積み重ねが、結果的に未来に甚大な影響を及ぼす可能性もあるが“Time Patorol“はそこまで個別にはトレースできない。かなり危なっかしいと思うのだが・・

[第二の問題]  “Cumulative audience Paradox“(堆積する観客のパラドックス)

人気の観光地は賑わうものである。同様に時間旅行も例えばキリストの磔刑などはツーリストが増加している。しかも、当然狙い目の日時は同じだ。ということで、同じ場所、同じ日時に、ツーリストが次々と吹きだまっていくわけだ。

[第二の問題の解]  

解決法はない。基本的には「お互い無視しましょう」がルールのよう。

[第三の問題]  “Paradox of Temporal Accumulation“(一時的な堆積のパラドックス)

“Courier“たちも、そうした人気の時間スポットに頻繁に時間旅行していると自分Bとばったり出会う、という可能性ももちろんある。その自分Bは、過去の自分かもしれないし、見てはいけない未来の自分かもしれない。

[第三の問題の解]  

解決法はない。基本的には同じく「お互い無視しましょう」がルール。

と、なんだかのちの大混乱が目に見えるようだが、こうした学習を経て、新米“Courier“Judは早速念願の古代ビザンチン、コンスタンティノープルへの時間旅行に帯同。彼の“Courier“のキャリアが始まる。
やたらと時間旅先でセックスを繰り返す“busy sex man“の先輩Buonocore。今の自分を生み出した祖先を殺す(つまり自殺)不可解なオブセッションを持つ先輩Capistrano。冒頭の“Groovy”な先輩Metaxasは特に強烈で、非常に優秀でかっこいい“Courier“なのだが、ひたすら自分の家系をさかのぼっては性的関係を結んでいくことにとりつかれていた。しかもある中世の時間点に自分の王国を築いて、たまに戻っては優雅に暮らしていたりした。
悪い人間はいないが、むろん“Time Patorol“の規定に反する、かなりよからぬ考えを持った先輩たちにもまれ、Judも次第に影響を受け、いっぱしの“Courier“になったころには、数奇な運命で自分の祖先の美しいPulcheria妃と出会うと、やっぱり手をつけてしまう・・・


なんとなく本書が書かれた当時の時代を感じさせる、フリーセックスを謳歌してます、ちょっとワルくらいがちょうどいいんです、仕事はプロフェッショナルにかっこよくやってます(ゴルゴか島耕作か?) みたいな感じが、くどいといえばくどいのだが、Paradoxが絡み合ったほぼコメディと言っていい終盤のどたばたがかなり面白く、英文の読みやすさも手伝って一気に読めた。

Ballantine版のこの表紙絵も時代が感じられて大好き。このままTシャツにでもしたいくらいである。次は懐かしさで真鍋博画伯版。【新訳版】の方は申し訳ないけどちょっとあわないかな。


 



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